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 その日のプロンテラは晴れていた。

 天の高いところに流れる白い雲をいくつか乗せただけの、あまりに青い爽快な空が広がっていた。教会の薄暗い部屋から出てきたばかりのツイードは、出口の扉を後ろ手に閉め、眩しい空に眼を細める。今日もいい天気だ。けれど首都を慌ただしく歩いていく人々の中で、空を仰ぐ者は自分以外いないようだった。ここは、そういう街だ。

 

 すっかり遅くなってしまった時間をぼんやりと意識しながらも、特に急ぐ気にもなれず、いつもの歩調でツイードは歩き出す。職業ギルドにプリーストとしての籍はあるものの、教会での役職もない自分のような冒険者は、狩りに出かけなければその日の収入は皆無だ。なので渋々、自分と同じ境遇の冒険者たちとパーティーを組み、しがない金を稼ぐ毎日となる。とは言え、一日を逃せばただちに資金が底を尽きる火の車みたいな家計をしていないものだから、感覚としては本当に、日々の狩りはただ惰性のように出かけているにすぎない。

『若くて守る物もない内から、冒険を躊躇ってどうする』と年上のプリーストに言われたことはあるが、その理屈はいっそ逆だとツイードが思う。守る物があるのなら、自分だって今よりは必死に生き急いだだろう。

 熱血、共同体感覚、そういうものは少し前のトレンドだ。冒険者ギルド設立前後の彼らは、時代の流れと勢いの力でそれらを形と成しただろうが、自分たちのようにノービス時代には既に職業カタログを眺めながら育った世代は、個人主義の傾向が顕著だ。真面目に命を削っていくよりは、もう少し賢く死にたい。

 もちろん、ツイードは自分のそういう性格を時代のせいだとは思わない。ただ、客観的に自堕落だなと思う。あえて悪事に手を染めるだとか、投げやりでお座なりに生きるだとか、そういう事は好きじゃない。けれど、自分は全然真面目じゃない。それをちっとも悪いと思っていないふてぶてしさが自分の中にはある。そういうものを自堕落だな、と思う。

 

 幸い首都には、そういう若くして既に自堕落な冒険者たちが、いつのまにか集まる場所がいくつかあった。

 ツイードが向かっているのはその内のひとつ、外周西あたりにある溜まり場だ。だいたい朝の遅い時間帯には顔なじみの連中が集まって、その日限りのパーティーを組み、適当なダンジョンへと狩りに向かう。そのパーティーに支援プリーストとして同行するのがツイードの最近のルーティンだった。

 

 決して、これが正攻法の生き方だとは思わない。けれど、首都は王道以外の亜流や例外であふれかえっている。プロンテラなんていうのは雑踏だ。行き交う人々の身分や職業があまりにもバラバラなのに、なにもかも全てがないまぜになって、ワゴンセールのように無造作に売られている。そのぐしゃぐしゃの山の中で、ひっそりと居直っているのが、自分のような冒険者だ、とツイードは思っていた。