2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

7-4

空の高い場所に、薄い雲が広がっている。鎖の鎧みたいだ。 こういう模様が空いっぱいに描かれている風景をどこかで見たことがあるが、あれはいつ、どこでだっただろうか。 「ねえ、聞いてんの? スルガ」 上空にぼんやり漂っていたスルガの意識は、隣からの…

7-3

熱いシャワーが、豪雨のように頭に降り注いでいる。 それを一身に浴びていると、いつも思考がリセットされるような気になった。こういう原始的な手段は日常にどうしたって必要だ。身体の感覚を呼び起こさないと、地に足がついている感じがしない。 子供の頃…

7-2

今日はツイードが教会の用事で溜まり場に来ない日だった。だからなんとなく仕事終わりに飲まずに帰ってきたけれど、仲間たちの会合に顔を出せばよかった、と一人で食事を取りながらスルガは思う。 自分の空腹の為だけに、自分で自分に食事を用意するのが何だ…

7-1

パリンと、ガラスの割れる音が夜の路地に鳴り響いた。グラスか窓か酒瓶か、何がどういう経緯で割れたのかは分からない。どこで割れたのかにも、さほど気にならない。その後に続く怒声や悲鳴も、この街の夜を体現する記号の一部でしかない。 スルガは自分の宿…