2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

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冒険者なんて言えば聞こえはいいが、結局のところは大半をその日の風に任せてしまうような職業である。 最近こそ、過去の経験から学んで身近な人間に手を出さないようにしていたものの、その日パーティーを組んだ人間と流れで行きずりに寝てしまうなんていう…

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「だー! 吐くな! 吐くなよ!?」 酔った騎士、ルシカをおぶったまま、ハンターのマシューが心配そうにそう叫んでいる。 「どりょくする…」 だらんと腕を垂らし、彼女は青ざめた顔でうなだれた。 いつのまにか仲間内もそこそこに飲んだらしく、酒場の一角で…

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ダンジョンといえど、ルティエはあまりに寒かった。 用事が済んでしまえば、こんな思考の鈍るところにいつまでも居られない。 さっさとプロンテラに帰ろうとツイードはスルガに提案し、うやむやの内に彼の曖昧な返答を了承と取った。 スルガのほうは、自分の…

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「寒ッ!」 「うっわ、さむ」 久しぶりに出したポータルをくぐれば、そこは一面銀世界。冬の街、ルティエだ。突然変わった気温に背筋がぎゅっと縮み上がる。 シーズン中なら屋台やら人混みやらでまだ少しは温かみもあるだろうけれど、季節外れで人の気配もな…

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せっかく到着した溜まり場には、いつものような賑わいはなかった。 壁沿いの石段に軽く腰掛ける人影が一つあるだけで、他の冒険者の姿はない。 浅い空色の髪を短く切り込んだアサシン。あれは溜まり場の常連の一人、スルガだろうとツイードは見当を付ける。…

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その日のプロンテラは晴れていた。 天の高いところに流れる白い雲をいくつか乗せただけの、あまりに青い爽快な空が広がっていた。教会の薄暗い部屋から出てきたばかりのツイードは、出口の扉を後ろ手に閉め、眩しい空に眼を細める。今日もいい天気だ。けれど…